日経産業新聞2013/10/4から引用

生の迫力、見学者魅了

間近で職人技、取引先開拓

食器・刃物の燕三条 工場の祭典

 新潟県の燕三条で製造現場を公開する「工場(こうば)の祭典」が始まった。職人が間近でガス炉で熟した鋼材を素早くたたいて包丁の形にする。銅板をたたき、延ばしたり縮めたりして、急須を作る。菖や魂、息づかい、手足の連動など、製造過程の迫力は伝統的産地の競争力そのものだ。

 三条市の包丁工房、タダフサでは曽根忠一郎会長が自らスプリングハンマー機を使って、鉄に鋼を付け、包丁を成形していた。真っ赤になった鋼材を素早く手で動かしハンマーを落とす場所をわずかに変え、形を整える。じっと見ていたのは新潟市でそば処を開く店主。毎日使うタダフサの包丁を作る現場を一度見たかったという。「いい包丁は切れ味だけでなく、疲れが違う」実行委員長の曽根忠幸タダフサ社長は「技術をわかってもらうには、ものづくりの現場をみてもらうのが一番」と話す。



54社が参加
 工揚の祭典は昨年まで6回続いた「越後三条鍛冶まつり」を衣替えした。今までは三条市中心部の三条鍛冶道場にテントなどを張り、来場者に包丁の鍛冶体験などをしていた。「実際に作っている所が見たい」との声を受け、方式を一気に変えた。三条市と燕市のものづくり企業など54社が参加、6日まで開催する。  くわなどの農異を作る相田合同工場(三条市)など、工場を日常的に公開していた企業はあったが、大半が初公開。企画に当初から携わった相田聡社長は「54社も集まるとは思わなかった」と話す。国定勇人・三条市長は「職人が誇りを持つには人に褒められることが大事」と指摘する。

 隣の燕市では銅板をたたいて作る鎚起(ついき)銅器の老舗、玉川堂で、カンカンと銅板をたたく音が鳴り響く。4〜5人の職人が黙々と畳の部屋で少しずつ鋼を丸めていく。たたいて薄くするだけではない。急須の注ぎ口などはたたいて分厚くする。一カ所でも裂ければもう直せない。

最終製品の活路
 イベント全体を監修したのが、メソッド(東京・渋谷)の山田遊社長だ。東京都墨田区の中小企業の自社製品開発などに関わるが、「商品を開発するのとイベントを作るのは一緒」と話す。同大田区なども工場開きのイベントを行っているが、「はさみや食器など最終製品の多い燕三条は、製品ができあがる光景を見てもらうメリットが大きい」と見る。相田合同工場では、ガーデニング用などを買い求める人が何人もいた。

 祭典は一般消費者だげを対象にしたものではない。初日からバイヤーが各社を訪れ、週末には東京都内のクリエーター集団がやってくる予定だ。工場を公開する企業には、武田金型製作所(燕市)など、電機や自動車向けの金型や部品を生産する工場もある。

 現状から脱皮するため、最終製品に活路を見いだすそうとする中小企業は多い。ただ、製品はできても収益に結びつくかどうかは未知数。まず、消費者やバイヤー、デザイナーに現場を見てもらい、商品になるまでの物語や、ものづくりの実力、新商品の可能性を見てあらう意義は大きい。

 素材の3割しか使わず、熟練職人が1つずつ、5千円台から高いものは1万5千円台もする高品質の爪切りを生産する諏訪田製作所(三条市)。輸出も多いグローバル企業だ。2年前から黒を基調とする近代的な工場を開放。小林知行社長は「人が来ることでみんなの心構えが変わる。人を受け入れるための掃除は整理整頓につながり生産性が上がった」と話す。

 諏訪田の工場のすぐ裏にあるのが三条製作所だ。今もふいごを使い手で風を送りながら、刀や和のカミソリを作る。両社の見た目のギャップは大きいが、三条の岩崎重義社長は諏訪田の特別顧問を務め、同社の若手に技術を教える。ここに燕三条のものづくりの奥深さがある。(三浦義和)

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