三条金物卸商協同組合で発行している「金物ニュース」という新聞があります。その13/8/31号に次のような記事が載りましたので転載します。

刃物問題と教育問題に関する提言

 最近起きた少年による殺人や傷害事件にナイフが使われていたことが、世間に大きなショックを与え多くの議論を巻き起こしている。
 議論は、若者達の凶悪な犯罪が何故発生したか原因を追及することと、どうしたら防げる心の対策を考えることの二つに大きく分けられる。マスコミの取り上げ方はおおげさで、この問題を冷静に判断する意見よりもショッキングな面だけを強調している傾向が強い。そうした由から浮かび上がって来たのが危険な刃物が身近にあるから犯罪が起こつたのだとして、刃物を持っているか否かの調査や刃物を持たない指導等が始まっている。
 刃物が危ないとして犯罪の原因としたり、対策として若者から刃物を遠ざけるべきだと考えることは「臭いものには蓋をする」の諺の通り、目先の現象を隠すだけで本当の原因や対策と言ったものとは程遠く、枝葉に触れているだけで何の役にも立たないたない。

 25年程前、青少年が刃物を使って死傷事件を起こした時にも、悪いのは危ない刃物を持たせるからだと主張する流れが起こり、刃物を持たない運動が展開されたが結局真の原因の究明がなく、しっかりした対策が無かったまま今日に至り、再び同じ問題がもっと深刻になって姿を現している。
 第一番に私達が認識しなければならないのは、犯罪に使われている道具である刃物が危ないのでなく、使う人間の心や考え方が危ないのであるということだ。年間1万人近い死者を出す日本の車社会は、車が危ない道具だから使うなとか持たせるなとは言わず、運転する人間の心の在り方を訓練する方向を採っている。

 こうした例と刃物を持たせるなと言う意見とを比べてみて欲しい。最近の刃物を使った少年達の犯罪は、昭和20年、戦争に敗れた後の武力放棄の行き過ぎから、学校教育や家庭生活において子供から刃物を排除してしまった結果でもあると思う。刃物の扱い方や使う時の心構えを何一つ躾けられず、教えられなかったことが今度のような凶悪犯罪の原因として挙げられるのではなかろうか。
 更に世の中が便利を追い求めたり、時間の短縮や労力惜しみで何でもかんでも機械やコンピュータを用いる自動化が、手仕事全般・手道具を不要として来たことも否めない。
 刃物と人間との係わりは石器時代から数十万年を数える。人間は二本の足で歩く、言葉を喋る、火を扱える、道具を作りそれを使いこなすことが出来るなど他の動物と比べ幾つかの特徴がある。人間がつくった道具の中で刃物は、最も人間の暮らしに役立ち、石から金属へと進化を続けながら人々の生活を支えて来た。そして、刃物は現代に至っても尚必要不可欠な道具である。人間の歴史を振り返るならば、人類の発展と道具である刃物の関係が明らかに理解されよう。

 ただ、人間がつくり出した便利な道具は、有益である反面使い方によっては危険性も伴うことは、石の刃物の頃から先人は気づいていた。刃物を用いる心構えは、使う人が傷つかぬように、また他人に刃を向けてはいけないということが基本となり、不文律として大人が子供へ、先輩が後輩へと厳しく伝えて来た躾である。これは今日でも便利と危険を合わせ持つ、火薬、車、原子力等に対しても共通する点である。
 幼い時から道具を扱う倫理、道具への尊敬をしっかりと身につけさせ、その過程の中で健全な心と手に技をつけさせることが大切だと思う。この辺で改めて刃物を通じ、子供達に人間としての基本的な躾を家庭で始めること、学校においても遠い将来を見据えた根気のいる基本教育のカリキュラムを考えなければなるまい。遅すぎるかもしれないが行わなければ良い道は拓けて来ない。私たちはそう提言いたします。     (文責 岩崎 重義)

健全で人間性豊かな子供達を育むために私たちは協力致します

1.私たち三条の刃物生産者は、健全で人間性豊かな子供達を育むために、親と子供の両方を対象 とした刃物づくりの実技指導や刃物の正しい使い方などの指導を通じて、家庭教育や学校教育に積極的に協力致します。
2.私たち三条の刃物生産者は、皆さま方の生活がより豊かに、快適に、便利になるためにより良い刃物づくりを目指して更に努力を続けます。
3.私たち三条の刃物生産者は、日本の道具文化発展に寄与すべく更に精進を続けます。


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